会場掲示「ごあいさつ」より

本日は「小林澪子回顧展」にお越し頂きありがとうございます。

小林澪子(本名:陰山妃呂美 / かげやま ひろみ)は、1990年代初期より2000年代初期にかけて、俗にレディ・コミと呼ばれる女性向け漫画雑誌の人気作家として活躍しました。 性的側面の強いレディコミ雑誌の中でも小林が多くの作品を発表した「タブー(三和出版)」は、ほぼ SM 主体の 過激な編集方針で、小林の作品内容もその方針に従ったものでした。

しかし、小林本来の作品は人間の心理描写に重きを置く作風であった故、作品中で常人理解しがたい倒錯行為に 耽る女性達を描きながらも、彼女たちの心の内やそこに陥る深理、性癖など(彼女たちなりの)整合性を丹念に 描いていきました。 その作風が多くの読者の支持を得て、「女性ならではの目線でエロティシズムを描く漫画家」との評があります。

幼い頃から漫画絵を描く事が大好きで、ひたすらにその道を精進してきた小林澪子でしたが、残念ながら 2019 年春 病没致しました。享年56歳。早すぎる死でした。

今回の回顧展では、1990~2002年頃の小林澪子の原画を中心に展示しています。 手描き原稿に残る小林独特のしなやかで長いストロークで描き出される柔らかな女体表現、内なる闇を秘めた気だるく 物憂げな表情などに注目して頂きたいと思います。

小林澪子が気に入って、学生時代からペンネームとして使っていた「澪」という字には「航跡」という意味があります。 私たちは、漫画という表現法を愛し、描き続けた女性の航跡の一部を皆様に見て頂きたく、この回顧展を企画しました。 どうぞごゆっくりご高覧下さい。                                       

[小林澪子回顧展]企画実行委員会           松田 紀子