解説文
ポルノの漫画表現としての側面を秘めた「レディコミ誌」の中で、まさに未知の領域ともいうべき SM 行為をとりあげた タブー」誌(三和出版)に、小林は多くの作品を残した。
ストーリーは全て、小林の空想力。本人の言うところの”完全脳内妄想” によって生み出された創話であるが、元ネタとして 読者から寄せられた体験談をベースにしていることもあるらしい。 筆者はこのような体験を持つ人々の存在に驚かされるばかりだが、小林は決して彼女(彼ら)を異端視することなく、冷静に、 かつ柔和に「在るべき存在」として受入れていたようである。
性交に悦びを感じるのはヒトだけであるという。ヒト以外の動物は遺伝子を継ぐための「交尾」としてのみ性交を行なう チンパンジーなどの類人猿はコミュニケーション手段として、疑似性交を行なうらしい)が、悦びの為の性行為を文化として
発展させてきたのはヒトだけであろう。
性行為に単なる快楽だけでなく、苦痛 をともなう 嗜 好を求める人々に対して、常人( と思っている我々)は、彼らに対して スキャンダラスな異端者」という視 線を持ちがちであるが、人間生活の最もプライベートな部分について他者と確 認しあった
事など、誰しも無い事だと思う。社会通念的な概念で皆、「私はノーマル」と思っているだけかもしれない。 そのあいまいな安心感に違和感を覚え、「SM」という非合理的な行為の傾向していく人間心理とは何なのだろうか。 蹂躙・拘束・拷問・調教などの行為は行使側(S)にとっては人を支配し従わせる悦び、自己の範囲を他者の領域にまで拡げる 欲望を満たす行為として想像に難くないが、受ける側(M)の感覚はどうであろうか。 小林の作品に登場する女性たちの苦悶の表情を見ていると、さながらサクリファイスに臨む者の顔にも見えてくる。 自らの生と性を試し、その後の法悦ともいうべき究極の頂きに到達しようとでもするかのように…。
彼女たちは、そこにたどり着くことができたのだろうか。 ※サクリファイス(sacrifice):生け贄、犠牲の意。ラテン語の「神聖(sacri)にする(fice)に由来。

 

Taboo(タブー)/1992〜2009三和出版

小林は1994年より掲載開始(隔月掲載)