2020年9月

💐『小林澪子回顧展』解説/デジタル:1

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解説文/デジタル:1

2000年代に入ると、世の中は急速にデジタル化の道を進み始める。 出版業界においても、作業の効率化を図るため、積極的にパソコンが導入されるようになった。作家にもデジタルへの 転換が推奨され、小林も2003年頃からはデジタルによる作品制作に転向している。 小林の制作法は、人物などの主線を場面ごとに手描きし、スキャニング、それをパソコン内で作成したコマ割りの中に スケール調整しながらはめ込んで行った後、ベタトーン、背景などの素材を利用しながら仕上げるというものである。 したがって、すべての作業をパソコン内で行なうタイプの作家と違って、主線には小林のタッチがはっきりと残っている。 また、カラーで仕上げられたイラストには一部、写真ベースの素材を使っている。デジタル画ならではに効果技法であろう。

 

《線香花火》より

《地上の星》より

💐『小林澪子回顧展』マンガとは?

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マンガ(いわゆるストーリー漫画)とは、作画だけでなく 「原案」「脚本」「効果」「演出」などを ひと作品として個人(あるいはグループ)で練り上げて制作して行く【 総合芸術 】の一つである

 

限られた時間内に、テーマを決め(あるいは与えられ)編集方針に沿う作品を練り上げ、実際に手作業として作り 出して行く作業は、まさに過酷と言えるものだったであろう。 商品として成立するレベルの技術力は言うまでもなく、マンガというものに対する情熱と、自らの作品を生み出そうというエネルギーの計り知れない強さを持っていなければ、決して成り立たない仕事である。
小林澪子回顧展」では、小林澪子の1990年頃~2002年頃の手描き原稿も展示して、人物などの主線以外にも、 ワク線・黒べた・スクリーントーン・ホワイト修正など手仕事の跡がのこる、小林の仕事ぶりを紹介する。
原稿内の文字部分(ネーム)は、作家が鉛筆で薄く下書きした上に、出版社の編集デザイン部が写植(印字)をひとつ ひとつ手貼りしていた。 他にもトーンの浮きやはがれ、原稿面の汚れチェック、線の微妙な掠れの修正などは編集デザイン部のデザイナーが 手作業で行なっていた。原稿に被せたトレーシングペーパー上に書かれた製版指示など、入稿から印刷に入るまでは 短い時間であろう慌ただしい現場の様子も、同時に感じてほしいと思う。

 

 

《クローゼットルーム》より

 

 

《死にたい》より

💐『小林澪子回顧展』解説

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解説文
ポルノの漫画表現としての側面を秘めた「レディコミ誌」の中で、まさに未知の領域ともいうべき SM 行為をとりあげた タブー」誌(三和出版)に、小林は多くの作品を残した。
ストーリーは全て、小林の空想力。本人の言うところの”完全脳内妄想” によって生み出された創話であるが、元ネタとして 読者から寄せられた体験談をベースにしていることもあるらしい。 筆者はこのような体験を持つ人々の存在に驚かされるばかりだが、小林は決して彼女(彼ら)を異端視することなく、冷静に、 かつ柔和に「在るべき存在」として受入れていたようである。
性交に悦びを感じるのはヒトだけであるという。ヒト以外の動物は遺伝子を継ぐための「交尾」としてのみ性交を行なう チンパンジーなどの類人猿はコミュニケーション手段として、疑似性交を行なうらしい)が、悦びの為の性行為を文化として
発展させてきたのはヒトだけであろう。
性行為に単なる快楽だけでなく、苦痛 をともなう 嗜 好を求める人々に対して、常人( と思っている我々)は、彼らに対して スキャンダラスな異端者」という視 線を持ちがちであるが、人間生活の最もプライベートな部分について他者と確 認しあった
事など、誰しも無い事だと思う。社会通念的な概念で皆、「私はノーマル」と思っているだけかもしれない。 そのあいまいな安心感に違和感を覚え、「SM」という非合理的な行為の傾向していく人間心理とは何なのだろうか。 蹂躙・拘束・拷問・調教などの行為は行使側(S)にとっては人を支配し従わせる悦び、自己の範囲を他者の領域にまで拡げる 欲望を満たす行為として想像に難くないが、受ける側(M)の感覚はどうであろうか。 小林の作品に登場する女性たちの苦悶の表情を見ていると、さながらサクリファイスに臨む者の顔にも見えてくる。 自らの生と性を試し、その後の法悦ともいうべき究極の頂きに到達しようとでもするかのように…。
彼女たちは、そこにたどり着くことができたのだろうか。 ※サクリファイス(sacrifice):生け贄、犠牲の意。ラテン語の「神聖(sacri)にする(fice)に由来。

 

Taboo(タブー)/1992〜2009三和出版

小林は1994年より掲載開始(隔月掲載)

 

💐小林澪子プロフィール

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小林澪子(こばやし みおこ)

 

 

神戸市出身 / 本名:陰山 妃呂美(かげやま ひろみ)
1981 神戸デザイナー学院入学
学校課題を制作しながら、” 水瀬 澪(みなせ みお)” 名義で同人誌 “MACK( マック )” に参加《 風狸けん先生と出会う 》 1983 神戸デザイナー学院卒業
夏、少女漫画家を目指して上京

1983 ~《津雲むつみ先生》《イケスミチエコ先生》などのアシスタントをしながら漫画の勉強及びオリジナル作品の創作
※神戸妃呂美(かんべひろみ)で活動

1984 【 主婦と生活社 / sweet I 】「仔犬の日」でデビュー
「スティル」「空よりもふかく」など掲載
【 集英社 /office you・you 】「死にたい」(原作・津雲むつみ先生) 「幸せになりたい」など掲載 《仲野健児先生・海野やよい先生・しろみがずひさ先生・古塚利穂先生と出合う》

※以降、小林澪子(こばやしみおこ)で活動
2000 ~【 笠倉出版 / if( イフ )・Labien(ラビアン)】で掲載
2000 10 月 / ラビアン増刊号「小林澪子傑作集出版」
1994~ 【 三和出版 / Taboo(タブー)】にて掲載開始
2008 【 青林堂 / 単行本『あなたの隣人 M』】発売
2000 ~ 2018
・同人誌『Mʼs MAGAZINE』や “ゼルダの伝説” の二次創作本を制作(コミックマーケット参加) ・オンラインノベルで活動
2014 5月《 六本木 café crow にてグループ展「Discipline108」開催 》
榎本由美先生・海野やよい先生・近藤宗臣先生と共に
「コミック、イラストにおけるボンデージ、ディシプリン考察」をテーマに企画展参加
2019 4月6日 病没
◆BDSM…「B」Bondage(ボンデージ) 「D」Discipline(ディシプリン)「SM」Sadism & Masochism( サディズム&マゾヒズム ) ・ボンデージ…「囚われの身分」で、その状態を指す
・ディシプリン…SM プレイにおける厳しい支配と服従関係の中で躾、懲戒、調教、懲罰といった行為・概念を示す BDSM 用語

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